第8話「手探りが多い進展」
この世界に来てわからないことだらけだが、それでも魔法の修業をする中で少しずつ前には進めている気がする。元の世界に戻る方法や私自身のことは一向にわからないままだが。とりあえず、今は自分のことではなくて魔法に集中しよう。
「身体の中で感じるエネルギーの塊みたいなもの。それが魔力だ」
私の魔法の修業に付き合ってくれてているミナトと、それを見守るツキ。私は瞑想のような過程を経て、自分の中に何かがあることを感じる。それはエネルギーのような何かで、温かく、明るく、けれど冷たく暗く怖い気もする。
「魔力を感じることができたら、それを使う練習だ。俺もだったけれど、まずはヒカリも身体に魔力を循環させることを覚えたほうがいい」
ミナトはそう言う。何気に初めて名前で呼ばれた。魔力の循環? なんのために?
「魔力の循環って?」私は聞く。
「魔力の使い方、魔法にはいくつかの種類がある。一つは、ヒカリも見た袱閃。でもそれは技みたいなもんで応用だ。もっと基本的なのが循環。要するに身体を魔力で強くするんだ。そうすれば速く動けたり腕力がついたり、傷が早く治る。それになにより、魔物との戦いじゃあ身体を強化しておかないとマジで危ない。最悪死ぬ」
私はそれで合点がいった。この前の魔物との戦い。ミナトもツキもフウちゃんも、異常なくらい運動神経がいいなと思っていた。あれは魔法で身体を強化していたからなんだ。
「循環ってどうやるの?」私は聞く。
「さっきみたいに魔力を感じて、次にその魔力を身体に流し込む。イメージは、そうだな、水って素手じゃ掴めないけどコップを傾けることで思った方向に流すことはできるだろ? そんな感じだ。魔力の流れを感じて、その流れを手とか足とかに向けるイメージだ」
はじめこそ魔法の指導をツキに任せようとしたミナトだが、こうして教わっていると説明が要を得てうまいなと感じる。普段はちょっと軽いというか、適当な感じがするミナトだが、地頭はいいんだろうなと思う。勉強苦手そうに見えて行ってる高校自体は偏差値が高いタイプだ。
私は目を閉じて魔力を感じる。時間はかかるが、それでもさっきよりコツがわかってきた。私の中にある不思議なエネルギー。それを間接的に動かすように、扱っていく。
「集中力が切れない気をつけながら目を開けるんだ」ミナトは言う。
私は言うとおりにする。するとなんだかさっきより身体が温かい。自分の身体が、もっと自分の妄想通りに動かせる気がする。
「試しにそうだな…… ジャンプしてみるか?」
私は言われた通りにその場で垂直に跳んでみる。
その瞬間、私は私に驚く。私は高く高く跳ぶ。軽々自分の身長よりも高く跳ぶ。こんなに高く跳んだのは初めてだ。一気に空が近くなった感じ。今日は曇りで小雨だが、それでも太陽が近くなった気がするくらいだ。
そしてそのとき、私は不思議な感覚になる。グラウンド、体育館、校舎、生徒の声、跳ぶ私。
ああそっか。これは、私の、記憶だ。
「私、ちょっと思い出した」私は着地して言う。「私、高校で、たぶんスポーツしてたと思う」
関係ないと思っていた物事で、知りたいことの手掛かりが見つかる。そういうことって、あるんだなと私は学んだ。