第9話「謎が多い特異点」
私の魔法の上達スピードは早いとは言えず、なかなか泥臭い修業の日々となった。
そういうわけで、私の心の中に密かにあった、自分はチートスキルを持った特別な存在なのかなという淡い期待は打ち砕かれた。
ミナトに教えてもらって以来、私は毎日魔力の循環の練習をしている。
ツキは宿屋の仕事、フウちゃんはカフェの仕事。ミナトは町に時折出る魔物“クラヤミ”を倒すという実践的な修業をするか、そうでないときは宿屋のソファで昼寝をしていた。
いずれにせよ、魔力を素早く正確にコントロールするのが私の当面の課題だった。
時折ミナトやツキが様子を見に来てくれて、私はその都度アドバイスをもらう。しかしなかなかみんなのようにスムーズに魔力を使うことができない。
「ヒカリは本当に運動部だったのか? 身体の使い方下手じゃね?」
ストレートな物言いに反論したいところだが、私自身もそう思う。時間をかけて集中すれば少しはできるのだが、素早くは難しい。魔力を上手く制御できないので、どうしてもぎこちない動きになる。
「たぶん運動神経というよりは、魔力のコントロールの問題だと思うよ。こればっかりは慣れだから、焦らず少しずつやっていけばいいと思うよ」ツキはそう言ったあと、再び岩場に腰かけ本を読む。
この前初めて魔力を循環させたとき、私の記憶が少し戻った気がした。私はたぶん高校生で、運動部に所属していた。そういう感覚があった。そして断片的に頭の中にある、高校の景色。記憶が少しでも戻ったことは嬉しいが、正直情報としては乏しかった。それに魔力をその後循環させても、追加で記憶が戻ることはなかった。
「まぁ、循環ができないと先に進めないってわけでもないし、並行して袱閃もやるか。いいよな? ツキ?」ミナトは言う。
「そうだね。人には向き不向きがあるから、案外袱閃の習得のほうが早いかもしれない」ツキも同意する。
そういうわけで、私は袱閃の練習も同時に始めることになった。要するに技を覚えるわけだ。特殊能力。必殺技。そういえば、魔法を使えるミナトやツキやフウちゃんの技ってなんなのだろう。
「基本的に袱閃ってのは自分でイメージして作り上げるもんだ。でもヒントなしだと漠然として難しい。だから『フィードバック』を参考にする。この岩に手を置いて、自分の魔力を外に出すイメージで魔力を操作するんだ。外に出た魔力の様子は、自分の袱閃のヒントになる」
私は言われた通りにやってみる。岩に手を置き目を閉じ、魔力を岩に流し込むイメージで操作する。
魔力が腕を流れ、掌から出るイメージ。私の身体の中心にある魔力の核のようなものは減っても小さくもなっていないけれど、確かに魔力が掌から岩に流れる感覚があった。私は目を開ける。岩が微かに、本当に微かに光って見えた。
「できた!」私は嬉しくなる。
「おかしいなぁ」ミナトは言う。
「え?」
「おーい、ツキ、フィードバックがねぇぞ」ミナトはそう言ってツキを呼ぶ。
ツキは私の所へ来て、もう一度魔力を岩に出力するように言う。私は言われた通りにやる。
「確かに魔力が出力されているのに、フィードバックがないね。単純に魔力をコントロールできていないのか、あるいは、ヒカリの魔力は何か特殊なのかもしれないね」
循環だけでなく、袱閃の修業でもつまずいてしまった。私はチートスキルを持った特別な存在ではなく、単に特別に覚えが悪い存在なのかもしれない。