プロット・バウチャーとは
プロット・バウチャーとは、物語において後に主人公を助けることになる物を指す。
例えば家族の写真を入れたロケットペンダントが、男を銃弾から守ってくれた場合などはその例である。
似たような例で言えば、男が銃弾を胸に受けてしまったが、たまたまスーツの胸ポケットに入れてたライター(それは彼が尊敬していた先輩警察官から譲り受けた物だ)で助かる。
このときのライターは典型的なプロット・バウチャーと言えるだろう。
プロット・バウチャーは物語を創作する上での技法の一つと言える。
一見次の展開に関係がないような物が、登場人物のピンチを思わぬ形で救う。
その展開に読み手は「ああ、あのときのあれがここで役立つのか」と点と点がつながった爽快感を得る。
そのような意味で、プロット・バウチャーは「小道具で伏線を張ること」と言えるだろう。
さて、先ほど言った通り俺はすでに銃を二回打ったわけだが、二発とも男を仕留め損ねている。
一発はロケットペンダントに当たり、二発目はライターに当たり男の身体には届かなかった。
俺は再び引き金を引き男を打つ。男の内側の胸ポケットには金属の名刺入れが入っていて、それにより男は致命傷を避けた。その名刺入れは男が妻からもらった思い出の品らしい。
くそっ、なんだこいつは。プロット・バウチャーばかりじゃないか。
おれは今度は男の頭を狙った引き金を引く。丸腰の頭なら、もう銃弾を防ぐことはできないだろう。
しかし、俺が引き金を引こうとした直前、男の腕時計の文字盤が太陽の光を反射させて俺の目を眩ます。その腕時計は男にとって父親の形見らしい。
光に目が眩み銃口の角度がブレる。銃弾は男の顔の横を素通りする。
その一瞬の隙に男は距離を詰め、俺を取り押さえる。
「もうやめるんだ!」男は言った。「お前が組織に利用されていることは知っている。恋人を人質にされていることも知っている。まだ俺は死んでない。今ならお前はまだ人殺しじゃない。俺は必ずこの組織を潰すし、お前の恋人も助ける。だからもうやめるんだ!」
なんてことだ。男は俺のことを全て知っていたのか。
俺は思う。もしもこの男が本当に組織から恋人を助け出してくれたら、俺は人殺しをしなくて済む。
このプロット・バウチャーをやたら持った男は、俺にとってのプロット・バウチャーかもしれない。